先に言っておきますが周辺減光や、あるいは収差といったものはレンズの原理的な問題なので多かれ少なかれどんな高性能レンズでも必ず発生します。
周辺減光や収差はそのレンズの独自の描写をかたち作る要素でもありますので、時には“味”として楽しめるものだと思います。
なので今回のテストはレンズの欠陥や問題を主張するためのものではありませんのでよろしくお願いしますね。
周辺減光とは
画像の中心部分に比べて周辺部分が暗くなってしまう現象です。「周辺の光量落ち」とも呼ばれる場合があります。
これは四隅になるほど顕著に現れます。
原因①
レンズを通った光は中心(光軸)から周辺になるにつれて光量が減少してしまいます。(角度θのコサイン4乗に比例して光量が低下するそうです。)レンズと光の物理的な法則なので、絞りの値による改善はありません。
原因②
「口径食」と呼ばれる現象があります。- レンズ正面から入る光は、通り道を遮られることなくそのままレンズを通過します。(円形)
- 斜めからレンズを見た場合、光の通り道がレンズの径に遮られてラグビーボールのようなレモン形(おわん形)になっています。そのため斜めから入る光は、正面からと比べて量が減ってしまいます。これが口径食と呼ばれ現象で周辺減光の原因になっています。
- 口径食は絞り込みによって改善します。絞りをしぼることによって口径食はなくなり光の通り道が円形になります。(写真は8角形ですが。)
原因③
上記2つはレンズ側の問題でしたが、デジタルカメラの場合は撮像素子(イメージセンサー)にも減光の原因があります。撮像素子はフラットな平面と思われるかもしれませんが、実際には電子配線などが組み込まれているので何層かに分かれています。
光と反応する受光面は、一般的には電子配線などの奥に位置していて光が届きにくくなっています。そのため撮像素子の表面にはマイクロレンズが装着され光を集光して受光面まで導いています。
しかし、斜めから入射する光は電子配線などの影響を受けやすく、映像素子の周辺部分は中央部分に比べて光量が低下してしまいます。
この現象は光の入射角度が大きいほど影響が出やすいので、広角レンズを使用する場合や、レンズと撮像素子の距離(フランジバック、あるいは射出瞳位置)が短いカメラの場合などは周辺減光も顕著になります。
ちなみにAPS-Cの大型撮像素子を搭載した高性能なコンパクトカメラを製造できるようになった背景には、こういった急な入射角度の光にも対応できる技術的なブレイクスルーがあったみたいですね。
撮像素子のマイクロレンズを入射角度に合わせてちょっとづつズラして集光効率を高めているそうです。
それではテストをしていきます。
絞り値による変化の比較
白い壁を撮影して、絞り開放(F2.8)による画像と、絞りこみによる周辺減光の改善を見ていきます。撮って出しのJPEG画像ではカメラ内で補正されてしまう可能性がありますので、RAW画像をニコンの無料ソフト「Capture NX-D」で現像して各補正はキャンセルしました。
開放F2.8だけ他の絞り値に比べて少し減光が大きいようです。
少し前に解像度のテストを行ったときも、開放の画像だけ他の絞り値よりも露出がアンダーに出た印象がありましたが、今回も同じ結果です。
そのほかは絞りによる変化はほぼないと思います。
開放から一段絞ることによって減光の改善があるということは、開放時は口径食による影響が出ているのかもしれません。
周辺減光の大きさですが、中央と周辺四隅の差は開放時で約1.5EVです。
F5.6まで絞っても約1.3EVなので絞りによる改善はほとんどありませんでした。
(ヒストグラムの山で合わせたので多少の誤差はあると思います。またカメラの個体差もあるかもしれません。)
一眼レフの高級単焦点レンズでも一般的に開放時は1.5EV以上の周辺減光がありますが、だいたいのレンズが絞ることによってと1.0EV以下に改善します。なのでAの周辺減光は割りと大きいようですね。
カメラ内現像との比較
カメラ内現像による補正の有無を調べるために、パソコンによるRAW画像とカメラの撮って出しのJPEG画像を比べてみます。カメラ内現像は標準になっている「スタンダード」モードです。
ホワイトバランスやコントラストなどに若干の違いが見られますが、基本的にはAのカメラ内現像は周辺減光に関して「補正なし」と考えていいレベルだと思います。
つまり、レンズ本来の描写に補正は加えず、そのままの性能で勝負しているということですかね。
補正なんてやろうと思えばいくらでもできてしまう時代ですから個人的にはこの結果はうれしいです。
周辺減光の補正
周辺減光がある画像と補正した画像とを比べてみます。補正と言っても今回は「Capture NX-D」が用意してくれている便利機能の選択欄にチェックを入れるだけで完了です。
NX-Dには「ヴィネットコントロール」という機能がついています。
「ヴィネット」とは口径食のことで、この機能を使うことによって周辺減光を取り除いてくれます。
今回はヴィネットコントロールの値を「100」に設定しました。
この数値は「+10」につき約+0.1EVの補正がされるみたいです。開放での周辺減光は1.5EVだったので「150」に設定してもよかったのですが、実際やっていみると補正がされすぎて周辺が明るくなってしまったので100にとどめました。
周辺減光がほぼ補正されたと思います。とても簡単ですね。
ここからは好みの問題だと思いますが、被写体によっては周辺減光の有無でけっこう雰囲気が変わっていると思います。
補正した場合は周辺部分を明るくするわけですから、全体的な画面全体の明るさ(EV値)も違います。
並べて比較したい場合、補正ありの方がスッキリとした印象にみえますが、同時にどこか散漫で味気なさを感じてしまいます。
基本的には周辺部分の光量を落としたほうが画面に絞まりや緊張感が出るそうです。
特にモチーフが画面の中心にくる、いわゆる「日の丸構図」の場合などはあえて周辺部分を焼き込んで光量を落とす表現方法はよく使われます。
確かに、画面の散漫さや動きに落ち着きが出ているように感じられますよね。(ね!)
好みの問題ですから周辺減光の有り無しのどちらが良いとも言えませんが、簡単に補正できることを考えるとレンズの大きなマイナスポイントというわけでもなさそうです。
ニコン担当者のノリ
話がちょっと変わりますが、2013年に学研から出版された「高級コンパクト大図鑑」という本の中でカメラ評論家の赤城耕一さんがAについて書いています。サンプル写真からしてあまりヤル気が感じられない記事ですが、周辺減光についてニコンの担当者がインタビューに答えています。ニコン鈴木さん: (周辺光量落ちは)必ずしも狙いではありません。やはり広角ですし、周辺減光は原理的に発生してしまいます。このサイズに収めていく中でいろいろバランスを考慮しながらまとめています。
ニコン髙橋さん: できるだけレンズ性能でいい素材(画像)を出し、画像処理による補正などは最小限に抑えることで、“味”のある写真に仕上げています。
開発者のほうから周辺減光を“味”と表現するのは少しズルイ気もしますが、なるどほ、そういえば確かにAにはカメラ内での補正ON/OFF機能がついていません。多くのカメラでは補正の切り替え機能は採用されているんですがね。
また、カメラ内現像のJPEG画像にしても全くといっていいほど補正はされていませんでしたね。
ニコン髙橋さん:画像処理でなんとかなるという考え方もありますけれど、私どもは光学メーカーですから。まずは、“素”の状態で、できるだけいいものを目指そうと考えています。僕は、基本的にはRAWデータで撮影しておいて家に帰ってパソコンで現像することが多いです。あれこれパラメーターをいじって補正する作業(後処理)もすごく大事だと思っているからです。
けれど、そういった現像や補正は結局のところアズ・ユー・ライク(お好きなように)な部分であるわけで、やっぱりレンズの“素”の描写にこそ憧れがあるんですね。
周辺減光は、今や補正機能を使うことでイッパツで解消されるわけですが、なぜか“素”の描写からくる周辺減光に対して愛着や楽しみ感じるのは僕だけではないでしょう。

0 件のコメント:
コメントを投稿